仮面講座


  1. 1. 歪んだ口

上記の2つに仮面は、同じ骨董屋で同時に買ったものである。あまり古くはないが、中国の地方の田舎芝居に使われた、作りがほとんど同じ仮面である。どちらも、木彫りで黒い漆がかかっていて、青年のような顔つきである。仮に左をA君、右をB君としておく。今回は、この2つの仮面をセットにして、相変わらずの自己流で考えてみようというわけである。歪んだ口をしている注目の仮面は、B君である。このように口を閉じたり少し開けていて、顔の右上にぐっと釣り上げている口の形状をしている仮面は、そんなに珍しいというわけではない。問題は、B君のような歪んだ口になるのは、どうしてか、どういうときか、ということが知りたいのである。単純に口の歪みは、性格が歪んでいると思ってしまいがちだが、果たしてそうなのか。これを考えるヒントになったのが、中国の貴州のある地域で使われていた、口の歪んだ仮面に関するエピソードである。それをもとにして、以下の物語を作ってみた。あくまでも、私の創作である。



  1. 2. 物語

A君は、北京に近い村の名主の息子で、B君はその番頭(召使い)の息子であった。二人は小さいときからの幼馴染で、よく一緒に遊んでいた。A君が中国で一番難しい国家試験である科挙の勉強を始めたので、B君もそれにつられて、勉強を始めた。A君は、家庭教師も付けて勉強をしていたが、B君はA君に時々教えてもらってはいたが、もちろん独学で勉強した。2人はそろって、科挙の試験を受けた。結果は皮肉なことに、A 君は落ちてB君が合格した。地位の逆転である。B君は試験を受ける前は、口の歪んでいないふつうの顔をしていたが、試験に受かって村に帰った時には、仮面のような口の歪んだ顔になってしまった。多分、B君は大喜びで自慢気に叫びたい気持ちであるだろうが、そんなことしたら父親の立場が悪くなって、即首になってしまう可能性もあるので、ぐーとこらえて口を閉ざし目をそむけているのである。B 君はその後、故郷を離れ北京に行って、国家公務員になれば、もとの顔に戻ると思われるが。
  
  

  1. 3. ひょっとこ
   

昔、村の祭りの出店に、おかめ・ひょっとこ・きつね・赤鬼・天狗などのはりぼての紙面が売られていた。ひよっとこは、室町時代の猿楽では、ひの禰宜(火の神)の道化(付け人)として、舞台に出るときは少し滑稽な役割を演じていたらしい。一般的には、火男(ひよっとこ)として、かまどの火をプーと吹いている下男の顔を、造形化したものである。口をすぼめ、まっ直ぐに突き出し吹いている姿は、ピストンのようによくしゃべる人のことを象徴化してもいる。いわゆる、口達者な男というイメージである。



しかし、ここに出ている「ひよっとこ」の仮面は、すぼめた口を少し右にまげた歪んだ口になっているために、ぺらぺらとはしゃべりにくい。もしかしたら、わざとこういう口にして、余計なことをペラペラしゃべりすぎることを、こらえているのかもしれない。この「ひよっとこ」の仮面の裏には、招福面と書かれている。想像するに、あることないことベラべラしゃべるのを、口を少し歪めて半分にいやさらにその半分に控えることが、福を招くよといっているのであろうか。

 
  
  1. 4. 最後に

口を歪めている仮面が、そのまま性格の悪さ表現していると最初から思い込むのではなく、もっと何か面白いことがあるのではないかと思ってはいたが、中国の民話に接して、A・B君の物語を作ってみた。B君の仮面を喜びをこらえ押し殺している仮面とみることによって、骨とう品としてほとんど価値のない平凡な2対の仮面も、少しは楽しめる面白い民俗仮面であるとわかっただけでもよかったと思っている。また、ひよっとこは、別名、空吹面とか、うそふき面ともいわれるが、口を少し横に歪めることによって、見方が逆転するということも示すことができた。どちらも、民俗学的にみて正しいのかと問われると困るが、こういう仮面の見方もあるのではないかぐらいで、お許しいただきたい。でも、今回はちょっとした人生訓にはなったかもしれない。